世界の衛星打上げロケット(欧州編) [宇宙村]
世界の衛星打上げロケットの米国編1、米国編2に続き、今回は欧州編です。
欧州の衛星打上げロケットといえば、Arianeシリーズが有名です。1979年、Ariane 1の打上げ成功を皮切りに、ESA(欧州宇宙機関)における宇宙開発計画と、欧州の打上げサービス会社・Arianespace社における商業打上げ事業の両方に活躍。Ariane 2~4と段階的に改良されて、現在はAriane 5が使われています。
[Arianespace社のラインナップ]
Arianespace社では、将来計画分を含め、下記3種類の衛星打上げロケットを揃えています。
- Ariane 5(商業打上げに大活躍したAriane 4の後継機)
- Soyuz(ロシアの有人宇宙船用ロケットを衛星打上げに利用)
- Vega(現在開発中の小型~中型衛星打上げ用ロケット)
上記各ロケットの輸送能力の調査にあたって、今回、下記サイトを参照しました。
(1)Ariane 5 ロケット
Ariane 1~4と段階的に性能向上させていたArianeシリーズが、Ariane 5では一転して全く新しい超大型ロケットに化けました。現在、オリジナルのA5G型から、第1段エンジンを改良したA5ES型、 加えて第2段を液酸液水燃料にしたA5ECA型に移行しつつあります。
Arianespace社のHP及びUser’s Manualには、それらAriane 5ファミリーの輸送能力(概要)が、下記の様に記載されています。
- Arian 5 [2段式]
低高度周回軌道(@高度200~400km、傾斜角51.6deg)
19~21t(A5ES型,A5ECA型)
太陽同期軌道(@高度800km)
10t以上
静止トランスファー軌道(@高度250×35950km、傾斜角7deg)
6.7t(A5G型)~9.6t(A5ECA型)
地球脱出軌道(@C3=12.6km2/sec2)
3.2t(A5G型)~4.3t(A5ECA型)
その他
太陽-地球系L2点:6.6t(A5ECA型)
月投入軌道 :7t (A5ECA型)
(2)Soyuz ロケット
打上げサービスには輸送能力のバリエーションが不可欠です。Ariane 5 が順調に打上がる様になると、その半分程度の輸送能力のAriane 4は引退しましたが、Arianespace社ではその代わりにロシアのSoyuz ロケットを使った打上げサービスを始めました。
Arianespace社のSoyuz User’s Manualには、Soyuz/ST(SoyuzにAriane 4のフェアリングを搭載)とFregat(上段ロケット)を組み合わせた輸送能力が記載されています。
- Soyuz/ST[3段式] + Fregat[上段ロケット]
低高度周回軌道(@高度400km、傾斜角51.8deg)
6.0t
太陽同期軌道(@高度800km)
4.3t
静止トランスファー軌道(ギアナ宇宙センター打上げ相当)
1.5t (←バイコヌール基地打上げのため性能的に不利)
地球脱出軌道(@C3=0km2/sec2)
1.6t
現在、Soyuzロケットによる打上げサービスは、カザフスタン共和国のバイコヌール基地から打上げられています。それが、2008年からArian 5と同じくギアナ宇宙センターから打上げられる予定で、それにより静止トランスファー軌道への輸送能力が3t程度(従来の約2倍)まで向上します。
(3)Vega ロケット
現在、Soyuzロケットより小規模な小型~中型衛星打上げ用にVegaロケットが開発されています(2007年末に利用開始予定)。
- Vega[固体式3段+上段ロケット]
低高度周回軌道
2.3t(高度300km、傾斜角10deg)
1.5t(高度700km、傾斜角90deg)
[欧州の射場]
東方向への打上げの安全確保が不可能なヨーロッパ本土の代わりに、南アメリカのフランス領ギアナにESAのギアナ宇宙センターがあります。Ariane 5はもちろん、将来はSoyuz(Arianespace社受注分)やVegaもここから打上げられます。
このギアナ宇宙センターの特徴は赤道に近いことです(北緯5度)。赤道に近いと、静止衛星の打上げが効率的に行えるため、その分、打上げコストを抑えることができます。
[欧州編・まとめ]
欧州編のまとめとして、Ariane 5とSoyuzの輸送能力を比較した図を作りました(下図参照)。この比較にあたって、各ロケットの軌道条件がほぼ一致している「太陽同期軌道」と「静止トランスファー軌道」を選びました。また、参考として、H-2Aロケットの値も書込んでおきました(詳細な資料がネット上に見当たらないので、こちらの数値を引用)。
ただし、この図は資料から読み取った数字から個人的に作成したものであり、裏付けはありません。傾向を示すイメージ図としてご覧下さい。また、これは「輸送能力」の図であり、「輸送需要」ではないことにご注意下さい。
(c)Blizado
欧州打上げサービス会社の衛星打上げロケットとH-2Aの輸送能力比較(イメージ図)
こうして見ると、Ariane 5がカバーしていない中程度の輸送能力を、Soyuzが補完していることが判ります。しかも、この補完をAriane 4でなく、あえてロシアのロケットを使うあたりに、Arianespace社の経営戦略(さらに欧州の宇宙開発戦略)がうかがい知れます。
[INDEX]
- 世界の衛星打上げロケット(米国編1)
- 世界の衛星打上げロケット(米国編2)
- 世界の衛星打上げロケット(欧州編)
- 世界の衛星打上げロケット(ロシア編1)
- 世界の衛星打上げロケット(ロシア編2)
- 世界の衛星打上げロケット(中国編)
アメリカの SpaceX 社が、幅広い能力の低コスト・高信頼性を狙ったロケット・ファミリーを開発している事を知ったので、トラックバックさせて頂きました。日本の規模からすると、米国の真似は難しいでしょうね。
by 歌島昌由 (2005-09-09 23:48)
歌島さん、こんにちは^^
SpaceX社の情報及びトラックバックありがとうございます。当方でもネット情報を調べて、「世界の衛星打上げロケット」記事シリーズの最後に予定している「補足編」にFalconロケットの概要を載せたいと思います。
シンプルな機体構成とシンプルなエンジンの組合わせで、低コストと高信頼性を目指すという理想論を素で実行しちゃうところ、さすが米国ベンチャー企業。ただ、それに加えて機体の再使用化を目指している点が...ちょっと心配です...(^▽^;)
まあ、機体の再使用化はSpaceX社の将来構想として、それ以外の部分については、2007年予定のFalcon9打上げが成功したら本物でしょうね^^
by ブリザド (2005-09-10 17:36)