SSブログ

世界の衛星打上げロケット(米国編2) [宇宙村]

先日は、世界の衛星打上げロケット(米国編1)と題して、Boeing社打上げサービス部門Delta II 及びDelta IV ロケットの輸送能力を書きました。

さて、米国にはもう一つの打上げサービス会社があります。それが、ILS(International Launch Services)社。Atlasロケットを製造しているLockheed Martin社と、ロシアのKhrunichev State Research and Production Space Centerの共同設立会社で、Atlas V 及びProtonロケットを用いた衛星打上げサービスを行なっています。


[ILS社のラインナップ]

今回の米国編2では、ILS社が衛星打上げに用いるAtlas V 及びProtonロケットの輸送能力について調査しました。参照したサイトは下記の通りです(注:下記サイトでMission Planner Guidesをダウンロードする場合、名前やメールアドレスの登録が必要です)

(1)Atlas V ロケット
ILS社が衛星打上げに用いるAtlasは、Deltaロケット同様に歴史が長いロケットです。1950年代末に米国のICBM用ブースタとして開発、60年代前半にはマーキュリー有人宇宙船の打上げにも使われました。その後、何段階もの改良を経て、現在のAtlas V ロケットに至ります。

このAtlas V ロケットは、フェアリングや補助ブースタのタイプにより、下記3種類のシリーズに分類されます。また、これ以外にも第2段ロケット(Centaur)のエンジン数にバリエーションがあり、その組合わせによって「401」「531」等の型番が振られています。

  • Atlas V 400シリーズ(フェアリング:4mΦ、補助ブースタ:0~3本)
  • Atlas V 500シリーズ(フェアリング:5mΦ、補助ブースタ:0~5本)
  • Atlas V HLV(フェアリング:5mΦ、大型液体補助ブースタ:2本)

これらAtlas V ファミリーの代表的な輸送能力は下記の通りです。

  1. Atlas V 400/500シリーズ [2段式]
    低高度周回軌道(@高度200km、傾斜角28.6deg)
     12.5t(402型)
     14.4t(531型)~20.5t(552型)
    太陽同期軌道(@高度800km)
     6.7t(401型)~11.0t(431型)
     5.9t(501型)~14.5t(552型)
    静止トランスファー軌道(@高度185×35786km、傾斜角27.0deg)
     5.0t(401型)~7.8t(431型)
     4.0t(501型)~8.7t(551型)
    地球脱出軌道(@C3=0km2/sec2)
     3.4t(401型)~5.5t(431型)
     3.1t(501型)~6.5t(551型)
  2. Atlas V HLV [2段式]
    静止トランスファー軌道(@高度185×35786km、傾斜角27.0deg)
     13.0t

この様に、Atlas V の400と500シリーズの相違点は基本的にフェアリングサイズであり、重量的な輸送能力は重複(500シリーズの方が広範囲)しています。なかなかユニークなシリーズ構成です。

(2)Proton ロケット
さて、 ILS社では、ロシアが開発したProtonロケットによる衛星打上げサービスも受注しています。DeltaAtlasが米国本土の空軍基地から打上げられるのに対して、このProtonロケットはロシアのお隣、カザフスタン共和国のバイコヌール基地から打上げられます。まあ、ロシアが開発したロケットですから当たり前なのですが...米ソの冷戦時代は、遠い昔の話なんですね...( = =)

さて、Mission Planner Guidesによると、Protonロケットの代表的な輸送能力は下記の通りです。

  1. Proton M [3段式]
    低高度周回軌道(@高度200km、傾斜角51.6deg)
     21.6t
  2. Proton M / Breeze M [3段式+上段]
    静止トランスファー軌道(@高度4200×35786km、傾斜角23.3deg)
     5.6t
    地球脱出軌道(@C3=0km2/sec2)
     5.7t

この様に並べてみると、Protonロケットの輸送能力はAtlas V 500シリーズの上位バージョンと重複しています。ということは、ILS社がAtlas V とProtonの両ロケットを揃えている理由は、輸送能力の品揃えを広げるためではない様です。

それ以外の理由として、例えば、「(仮にProtonが安価なら)お値段を気にするお客にProtonを勧める」とか、「Atlas V に重大なトラブルが発生した場合、それが解決するまで、衛星打上げをProtonに振り分ける」とかが考えられますが、本当のところはどうなんでしょうかね^^;


[米国の射場]

Boeing社のDelta II、Delta IV 及びILS社のAtlas V は、総て米国本土の東海岸と西海岸にある下記の空軍基地から打上げられます。

  • CCAFS(ケープカナベラル空軍基地)
    フロリダ半島のNASAのケネディ宇宙センターに隣接する射場で、太陽同期軌道を除く、東方向への打上げに用いられます。
  • VAFB(バンデンバーグ空軍基地)
    カリフォルニア州にある射場で、南南西方向の安全確保が要求される太陽同期軌道への打上げに用いられます。


[米国編・まとめ]

米国編のまとめとして、Delta IIDelta IVAtlas V の輸送能力を比較した図を作りました(下図参照)。この比較にあたって、各ロケットの軌道条件がほぼ一致している「太陽同期軌道」「静止トランスファー軌道」を選びました。また、参考として、H-2Aロケットの値も書込んでおきました(詳細な資料がネット上に見当たらないので、こちらの数値を引用)。

ただし、この図は資料から読み取った数字から個人的に作成したものであり、裏付けはありません。傾向を示すイメージ図としてご覧下さい。また、これは「輸送能力」の図であり、「輸送需要」ではないことにご注意下さい(例えば、太陽同期軌道に20tも運ぶ需要って考えにくいです...^^;)。

(c)Blizado
米国打上げサービス会社の衛星打上げロケットとH-2Aの輸送能力比較(イメージ図)

こうして比較すると、日本のH-2Aロケットって、静止トランスファー軌道への打上げ(静止衛星の軌道投入に使われる)の方が幾分得意の様ですね。恐らく、これはロケットの設計思想や打上げ環境の相違に因るものなのでしょう。


追記1:歌島さんのご指摘を反映してH-2Aロケットの参照資料を変更、文中の図も修正しました。
追記2:ILS社に関する情報を追加しました(2005/9/8)。

トップページへ
「ブリザドの部屋」親サイトへ


[INDEX]


nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:ニュース

nice! 0

コメント 2

歌島昌由

記事の作成、お疲れ様です。一つ気になった事があります。H2A202のGTO投入能力ですが、6トンは大き過ぎませんか。以下のサイトを見ると、3.8トンになっていました。しかし、いつの資料か記載がないので判りませんが。このような資料には、作成の年月を入れて欲しいですね。
http://www.jaxa.jp/jda/brochure/img/01/h2a.pdf
by 歌島昌由 (2005-09-02 21:30) 

ブリザド

歌島さん、こんばんは^^

>H2A202のGTO投入能力ですが、6トンは大き過ぎませんか。
はい、私も「変だな??」と思いましたが、他に適当な資料が見付からず...^^;
で、歌島さんからご紹介いただいた資料の方が精度良さそうなので、さっそく、その数値(SSOは202型、GTOは202~204型の値)を反映しました。

ご指摘、ありがとうございました^^
by ブリザド (2005-09-02 22:52) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0